建設キャリアアップシステム(CCUS)は建設業界改革ツール
2019年に本格運用が開始された建設キャリアアップシステム(CCUS)にどのようなイメージをお持ちでしょうか?
- 登録の手続きが面倒
- カードを貰えたけど、いまいちメリットがわからない
- 知り合いの建設業者も登録していないし、必要性を感じていない
CCUSについて検索をすると、このようなネガティブな印象が多いように思います。
しかし、国はCCUSを「建設業界改革ツール」として普及させるために様々な施策を講じています。
建設業界は担い手不足という大きな問題を抱えており、その原因となっている3つの課題を解決しなければならないからです。
この3つの課題を解決する糸口をつくるシステム、それが建設キャリアアップシステム(CCUS)なのです。
国が解決したい担い手不足3つの原因
1.技能者の賃金水準が低い
給与は建設業全体で上昇傾向にあるが、技能者については製造業と比べて低い水準にあるとされています。
また、令和4年度の求人賃金と求職者希望賃金の間には最大20%以上乖離している月があり、希望の賃金水準で働くことができない労働者が多くいることが想定されます。
国土交通省HP 『建設業を取り巻く現状と課題』より抜粋 (https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/ccus_background.pdf)
厚生労働省北海道労働局HP各種統計を基に筆者が作成 (https://jsite.mhlw.go.jp/hokkaido-roudoukyoku/jirei_toukei/kyujin_kyushoku/toukei/chingin.html)
2.労働時間が長い
建設業は全産業平均と比較して、年間360時間以上の長時間労働となっています。
一般的な週の労働時間である40時間と比較すると、1週間あたり7.5時間多く働いている計算(※)です。
国土交通省HP 『建設業を取り巻く現状と課題』より抜粋 (https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/ccus_background.pdf)
※月間超過労働時間30時間(360時間/12か月)を月間労働日数20日で除して得た数値に週間労働日数5日を乗じて得た数値
3.休みが少ない
建設業全体における技術者の4週あたり平均休業日数は5.59日となっています。
週休2日制と同じ休日数となる4週8休の割合は全体の20%弱であり、全体の技術者の80%以上が一般的な業界よりも休日数が少ない実態となっています。
国土交通省HP 『建設業を取り巻く現状と課題』より抜粋 (https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/ccus_background.pdf)
社保未加入問題・建退共事務の効率化も
1.社会保険の未加入問題
平成23年10月の雇用保険・健康保険・厚生年金保険の3保険の加入割合が84%であったのに対し、令和3年10月の3保険加入割合は98%となっており、ほぼ全ての事業者が加入しています。もっとも、1次下請は99.0%、2次下請は97.2%、3次下請は92.1%となっているように、下位の下請になるほど加入率が低くなっています。
また、本来であればこれらの保険に加入すべき「従業員」であるのに、「一人親方」として取り扱うことで、保険料の支払いを回避する問題があるとされています。国では「偽装一人親方」問題として対策を講じています。
社会保険の適用事業所であれば、従業員一人ひとりの保険料を支払う義務が発生しますので、支払いを必要とする従業員が少ないほど会社の負担が軽くなります。そのため、社会保険の加入が必要ない状態を装い、支払いを免れようとするのです。
結局は、将来の年金額が少なくなったり、失業時に貰える給付金が貰えないというデメリットを技能者側が負うことになります。したがって、社保加入対策は技能者のメリットにつながるものと考えられています。
国土交通省HP 『建設業を取り巻く現状と課題』より抜粋 (https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/ccus_background.pdf)
2.適正な退職金の支払い
建退共(建設業退職金共済)では、共済証紙を共済手帳に貼付して管理する証紙貼付方式で建退共の管理が現在も行われています。令和3年3月から電子申請方式が本格導入されており、令和5年度以降、民間工事も含めCCUS活用へ完全移行する予定。
証紙という紙で管理する状態では、紛失や貼付漏れが起こりやすいだけでなく、事業者側の事務が煩雑になるというデメリットがあります。加入者の退職金は、証紙の枚数を基に計算されるため、紛失等があった場合に損をするのは技能者ということになります。そういったことをなくすために電子的に管理する方向性となっているのです。
なぜ建設キャリアアップシステム(CCUS)の導入で課題解決できるのか?
1.技能者の能力を「見える化」
技能者情報の登録後、技能者一人ひとりにカードが交付されます。
このカードを現場に持参し、カードリーダーにタッチすることで、いつ・どの現場で・どのような仕事を行ったかが記録されていきます。
これらの情報を基に、技能者の能力に応じてカードが色分けされていきます。カードの色は白・青・銀・金の4種類あり、後ろにいくほど高レベルの技能者であることが証明される仕組みとなっています。
「この業種でこのカードの色ならいくら」というように賃金相場が作られていき、「能力に応じた賃金」での働き方が実現できるという流れが想定されています。このように、技能者の能力が「見える化」されていきます。
現場ごとに関わる事業者が異なる建設業界においては、能力と賃金を適正に結びつけることが困難ですが、CCUSというデータベースに情報を蓄積していくことで客観的な評価を実現しようというのです。
2.現場の入退場記録を管理
CCUSにはカードリーダーへのタッチによって入退場の記録が管理できる機能が搭載されています。
2024年4月から改正労働基準法が施行となり、建設業においても時間外労働の上限が罰則付きで規律されることになります。そのため、労働時間管理の効率化をCCUSによって行うことが期待されます。
3.公共発注者による週休2日達成状況の確認
特に公共工事での活用となりますが、公共発注者がCCUSの管理機能を用いて週休2日の達成状況の確認ができるようになっています。
CCUSの導入により直接週休2日制が実現できるものではありませんが、先述した改正労働基準法の施行と「発注者が見ている」という牽制効果が組み合わさることで、休日取得が促進されるのではないかと考えられます。
4.事業者登録・技能者登録の双方で社保加入状況の登録が必要
事業者登録・技能者登録の双方で現在加入している社会保険の登録が必要です(※社保に加入していないと登録ができないというものではありません。)。これによりCCUS登録事業者の社保加入状況、現場で作業をする技能者の社保加入状況を確認することが可能となります。
令和2年の建設業法の改正によって作業員名簿の作成が義務付けられたことに加え、CCUSの情報と作業員名簿を照合することで社保加入状況の確認を行うことが今後原則化されていきます。
5.建退共事務の効率化
建退共制度の事務は先述のとおり、証紙という紙での管理が行われています。
これをCCUSに蓄積された就業履歴データを電子申請専用サイトに登録するためのファイル作りに活用する方式に置き換えていくことで、事務の効率化・掛金の充当漏れを防ぐ狙いがあります。これによって、適切な退職金の支払いが可能になると想定されています。
建設業が求職者に選ばれる業界へ
国の建設業改革方針は、一言で表現すると「ホワイトな業界への転換」ということができます。
昨今の労働者はワークライフバランス(WLB)を重視する傾向にあり、長時間労働で休日が少ない業界は敬遠されやすいと考えられます。そして、「きつそう」・「大変そう」というイメージが定着している建設業界では、特に若い人材の入職が難しいのでしょう。
しかし、建設業は公共性が高く、今後も必ずなくてはならない事業です。そこで、国は新3K(給料・休日・希望)という技能者処遇改善の方針を打ち出し、その実現ツールの一つとして建設キャリアアップシステム(CCUS)を構築したものと考えられます。
「ホワイトな業界への転換」に向けたCCUSという「建設業界改革ツール」の普及は、建設業が求職者に選ばれる業界への糸口だということでできるでしょう。